上村松園『紅葉狩り』
冨田鋼一郎
有秋小春
那智山巡禮途上
蜜柑黄に瀧遠く見る日和かな 弘光
(ぶどう一房の画に)
弘光画伯の賛余りに横暴 依りて我の腹いせがため この一菓を添ふ 花笠庵
負けぬ木の葡萄宗匠(少々)いぢけけり 弘
(翆邦の描くバナナと竹籠に)
翆葉もりんごと柘榴を描く 印「翆葉」
西国三十三所第一番札所の那智山へ出かけた折、宿で寄せ書きを行ったもの。弘光があまりに大きな字で絹本面を占拠してしまったので、翆葉はご立腹。葡萄の一房を片隅に描き、抗議の賛を付した。これに対し、弘光は、宗匠(翆葉のこと)を「少々」いじけてしまったと、駄洒落で応じた。場は笑いで収まったのだろう。
那智山:那智山青岸渡寺は、一千日の滝篭りをされた花山法皇が、永延2年に御幸され、西国三十三ヶ所第一番札所として定めた。多くの信者や参詣者が訪れる。
『西国三十三所巡礼画巻』(金尾文淵堂 大正14年刊)は、中沢弘光木版画・石倉翆葉解説で出版された。
洋画家、版画家、油彩画家、挿絵画家。日本芸術院元会員。
大正から昭和にかけての俳人。尾崎紅葉門。号、花笠庵。