骨董品

加藤暁台筆「寒空や」句短冊幅

冨田鋼一郎

寒空やただ暁のみねの松  暁台

朝まだき凍てつく冬の薄暗い空をバックに、峰に立つ一本の松の木。シルエットを見るようだ。 空も大地もモノクロ写真を見るような風景から次第に明るく色づいてくる。空が明るくなるに従って、一層松の木の黒さが際立ってくる。 背景の明るさと松の黒のコントラストが鮮明だ。 蕪村の明るい油絵の世界というなら、暁台のこの句は水墨画の世界である。「暁台句集」入集

山中でただ一本孤高を保つ松に、厳しい世間の荒波の中での屹立する自分の姿を投影させているのかもしれない。

この句の魅力は、リズムの良さ。<さむぞらやただあかつきのみねのまつ>

「らやただあか」の六つのア音が並ぶ。一読、ア音の連なる単調な低い音調が、作者の内面をみつめる心境と重なる。 

暁台が“暁(あかつき)”を好んで用いたことは、暁台句集を紐解くと気づく。

  • 暁をまぐれて行やむらちどり
  • 冬の夜や暁かけて山おろし
  • 愚に帰る暁ごえや鉢たたき
  • 暁や雨も頻に虫の声
  • ゆふがほの華暁にうち見たり
  • 暁に魂入むほととぎす
加藤暁台(かとうきょうたい1732-1792)

江戸中期の俳人。久村氏とも。別号暮雨巷など。名古屋の人。天明俳諧中興の士を以て任じ、二条家から花の下宗匠の免許を受けた。蕪村らと交流。桜田臥央編「暁台句集」がある。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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