骨董品

蕪村の墨画淡彩「さくら川村」

冨田鋼一郎
H30.5 x W42.5 (cm)

「悠然として南山を見る」(陶淵明)

「うれしい事に東洋の詩歌はそこを解脱したのがある。
 採菊東籬下
 悠然見南山
ただそれぎりの裏(うち)に暑苦しい世の中をまるで忘れた光景が出てくる。
漱石「草枕」

悠然と山を望む馬上の人、健康的な若い馬子。動かぬ肥えた馬。低い藁葺き屋根の庇の下の物干し。群がり咲く赤や黄の草花。丁寧に描き分けられた正面の大きな2本の樹木や道端の草々。右上の薄く描かれた山容の量感も良く出ている。

蕪村が30代半ばまで関東(江戸と結城下館)にいた頃の作品。

  つくばの山本に春を待
 行年や芥(あくた)流るるさくら川 
       宰町(蕪村)
(「夜半亭歳旦帖」(寛保元年)に所収)

人物は、伝統的な中国の山水画では自然に抱かれるように小さく描かれる(寸馬豆人という)。
しかし、ここでは主役は、手前の馬上の人物と馬子。どっしりと安定した馬と騎乗者の実在感。江戸中期にこのような絵画は蕪村をおいていない。

落款:「さくら川村 四明筆」
印: 「長滄」
遊印:「發墨生痕」

落款からの時代特定
関東遊歴時代
筑波山付近
さくら川村とは
印泥の色が違う 遊印は後の印 
おそらく上洛後に押したものと考えられる

絵画鑑賞
雄大

馬上人物と馬子 点景ではない 眼前の人物が大きい

江戸時代にはない近代的、写実的な風景画 実際に見たことを強く印象づける 
心象風景でない

いったい誰にヒントを?

藁葺きの家屋 低い軒と庇 
草花

「夜半亭歳旦帖」寛保元年
 つくばの山本に春を待
行年や芥流るるさくら川 宰町

漱石「草枕」
うれしい事に東洋の詩歌はそこを解脱したのがある。
 採菊東籬下
 悠然見南山
ただそれぎりの裏(うち)に暑苦しい世の中をまるで忘れた光景が出てくる。

スポンサーリンク

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
記事URLをコピーしました