会津八一筆書「幽賞」銅板
冨田鋼一郎
有秋小春
初午(はつうま)やその家々(いへいへ)の袖(そで)だゝみ
はつむまや物種(ものだね)うりに日のあたる
雁(かり)ゆきて門田(かどた)も遠くおもはるゝ
あけぼのゝむらさきのまくや春の風
野ばかまの法師(はうし)が旅やはるのかぜ
夜半の句
月渓 印
呉春(月渓)は、几董とともに師匠の謦咳に接することができた門人のひとり。師の春の句を認めた。
「初午」「雁行」「春の風」の5句。それぞれ味わい深い。
さて、枕草子を思い浮かべる句はどれでしょう?
師蕪村の艶のある書体を彷彿とさせる、早春に相応しい月渓の書。
画人らしく、句の配置を微妙に上下にずらしたことによって、ゆらゆらと揺らめく春の風に靡いて心が浮たってくるようだ。
呉春にとって蕪村は師であるから本来「夜半翁の句」と記すところだが、ここでは「夜半の句」としている。
この書は蕪村よりさらに身分の高い人物へ献じたものだろう。
「師匠はこんな句をつくりましたよ」と自慢げに紹介したものか。