渡辺崋山筆鸕鷀(ろじ)捉魚図
冨田鋼一郎
有秋小春
サインなし
素晴らしい日和、暮なずむ夕暮れ時の街道沿いの宿場街。踏み固められた乾いた道を、西に向かって先を急ぐ旅人。旅情あふれる光景だ。
太い松の幹が画面を斜めに貫いて絵のアクセントになった。
樹々の間から漏れてくる西の空は黄金に染まり、藁葺き屋根、点景の人物、店の幟・暖簾など古色蒼然としている。
落ち着いた色彩で、丁寧に描きこんだ。足早に太陽は地平に沈み込み、みるみるうちに黄金色は色褪せて紫色に変じてゆく。
移動する主な手段は歩行(かち)だった明治初期頃まで、どこにでも見られた旅の光景だ。
近代洋画の幕開け時期、日本の懐かしい場面を描き留めておいてくれた。
浅井忠には八王子辺りの風景画がある。この作品も武蔵野台地、江戸の西郊の五日市街道かもしれない。
奥行きのある道を主題にした画を「道路山水」という。
特別な名所ではない、ありふれた道風景を絵画化していくことで、それまでにない新しい風景画の視点を切り開いた。
サインはないが、浅井忠作と伝わる。画題からして、若書きの画だろう。
明治期の洋画家、教育者。号は黙語(もくご)。『吾輩は猫である』の挿画を他の2人とともに描いている。