蓑笠庵梨一短冊賛 3俳人図
冨田鋼一郎
有秋小春
もの涼し春日の巫女の眼にほれた 子規
河東碧梧桐箱書き「子規短冊」
季語:夏(涼し)
子規は、郷里松山と東京を何度か往復している。道中で奈良春日神宮に立ち寄ったことがあったのだろう。偶然に出会った巫女さんの涼しそうな目元に惚れてしまった子規。
子規は、具体的な恋愛体験を持ったことがあったのだろうか。遺した文章からは窺うことができない。そんな中で、この句のような、ふとした折に淡い恋情が芽生えたことは幾度かあったのだろう。もっとも亡くなる直前の「渡辺のお嬢さん事件」は、実に印象的である。
類似句として、蕪村の句を紹介する。
かはほりやむかひの女房こちを見る 蕪村
夏の夕暮れ、こうもりの飛ぶ姿を追って、向かいの家の女房を視線の合った一瞬。庶民生活の中のふとした艶情。
俳人・歌人。名は常則。別号は獺祭書屋主人、竹の里人。
俳人。松山市生まれ。句詩「海紅」「碧」「三昧」を創刊。