骨董品

雛屋立圃筆「瀟湘の」句文懐紙

冨田鋼一郎
H28.0 x W44.8 (cm)

千賀の塩窯・若の浦ハ、異国の
八景にもまさらんといへ共、名にし
おふ都あたりの花さかりに、道俗
男女打まじりて、けふもけふもと
ながめくらし、うたひまふ袖の
色色ハ、花よりもなを見物也。
これにまさる所、又いづくにか
あらん。漸散がたになれば、春雨の
ふるハなみだかとおしめる人の
心、ことハりせめてにくからずこそ

瀟湘(しょうしょう)の夜るハ物かは花の雨  立圃書 印

紀伊の国和歌の浦の景色は、もろこしの八景にも勝るとも劣らない。
都のさくらの満開の時期に、出家も俗人も、男も女も混じって見事な桜を愛で暮らし、踊り歌う袖の色も色とりどり、花に劣らす見ものである。こんな素晴らしい場所がほかにあるだろうか。
花がようやく散る頃になると、花を散らしてしまう無常の春雨は涙かもしれない。花を惜しむ心は誰もが抱くものよ。

瀟湘(しょうしょう)の夜だというのに遠慮なく花を散らす雨が降ることよ

「瀟湘八景(しょうしょうはっけい)」八種の風景。

平沙落雁(へいさらくがん)
秋の雁が鍵になって干潟に舞い降りてくる風景 遠浦帰帆(おんぽきはん)
帆掛け船が夕暮れに遠方より戻ってくる風景 山市晴嵐(さんしせいらん)
山里が山霞に煙ってかすみ見える風景 江天暮雪(こうてんぼせつ)
日暮れの河の上に舞い降る雪の風景 洞庭秋月(どうていしゅうげつ)
洞庭湖の上にさえ渡る秋の月 瀟湘夜雨(しょうしょうやう)
瀟湘の上に夜もの寂しく降る雨の風景 煙寺晩鐘(えんじばんしょう)
夕霧に煙る遠くの寺より響いてくる晩の鐘の音 漁村夕照(ぎょそんせきしょう)
夕焼けの中のうら寂しい漁村の風景

雛屋立圃(ひなやりゅうほ1595-1669)

本名野々口親重。雛屋、紅粉屋とも呼ばれた。別号、松翁。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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