読書逍遥

読書逍遥第182回 『細胞』(上・下)(その2)ジッダールタ・ムカジー著

冨田鋼一郎

『細胞』(上・下)(その2)ジッダールタ・ムカジー著

副題 生命と医療の本質を探る
原題 The Song of the Cell
An Exploration of Medicine and the New Human

細胞(Cell)に焦点を当てて、人類最大の問題に迫る。

 人間とは何か?
 生命とは何か?

上巻
第一部 発見
第二部 ひとつと多数
第三部 血液
下巻
第四部 知識
第五部 器官
第六部 再生

(カバー見返し)
圧倒的な読後感!
ロバート・レーウェンフックがニ枚レンズの顕微鏡を覗き込み、植物を構成する小さな「部屋」の存在に気づいたのは、1660年代初めのこと

この生命の最小単位=細胞の発見を契機として、医学は飛躍的な進歩を遂げた

これら天然痘、エイズ、COVID-19といった感染症と免疫細胞との絶え間ない戦い

たゆまず働く血液や筋肉、神経などの細胞の驚くほど精妙な仕組み。そして、分裂し生殖する細胞の神秘と、それを自らの手で操作しようとする人々の飽くなき欲望

「細胞」と言う概念や細胞生理学の知識は、医療や科学、生物学を大きく変えてきたのみならず、社会のあり方、ひいては「生命とは何か?」という私たちの価値観そのものを揺さぶってきた

そして今、細胞操作により、私たちは文字通り「ニューヒューマン」を誕生させうる段階に入ったと著者は言う

@@@@@@

細胞は生命の基本単位である。では、「生命」とはなんだろう。生命の定義そのものについて、私たちが今も答えを出せずにいる。

現在の生命の定義は、いわば、メニューのようなものだ。生命とは1つではなく、一連の事象である。挙動の組み合わせであり、一連のプロセスであって、単一の性質ではない。

生きているとみなされるには、生物は生殖、成長、代謝、刺激への適応、内部環境の保持といった能力を持ち合わせていなければならない。複雑な多細胞生物はさらに、様々な性質を「出現」させる能力を持つ。

細胞システムから出現するそうした性質とは、例えば、損傷や侵入に対して自らを守るメカニズムや、器官の特殊な機能、あるいはまた、器官同士の生理的なコミュニケーションシステムや、感覚、認知などだ。

そしてこれらすべての性質が突きつめていけば、細胞や、細胞システムに依存していると言う事実は偶然ではない。だとすれば、生命とは細胞を持つことであり、細胞とは生命を持つことであると定義できるかもしれない。

この再起的な定義は馬鹿げてなどいない

もし最初の地球外生命、例えばケンタウルス座アルファ星に住むエクトプラズムのようなエイリアンに遭遇し、「生きている」かどうかを尋ねるとしたら、そのエイリアンが生命の性質のメニューを満たしているか確認したはずだ。

そしてエイリアンにこうも質問したに違いない。「あなたは細胞を持っていますか?」。細胞のない生命を想像するのは難しい。生命を持たない細胞を想像するのは難しいのと同じように。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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