伝松村呉春筆「筏さす」短冊
冨田鋼一郎
有秋小春
頭上漫々脚下漫々
丁巳冬青勇 印「冬青」
左手
1977年作。たわわに咲いたバラを愛用の花瓶に挿して描く。バラの生命力と香りが漂ってくるようだ。作者の温かな人柄が伝わってくる。「私は自分がよくならなければいい絵は出来ないと信じている。」常々彼が言っていた言葉どおり、日々よくなりたいと念じながら、精進を重ねたものがこのような形で遺された。
冬青小林勇は晩年リウマチを患い、右手で絵筆を執ることができないため、左手で描いた。原稿であれ、画紙であれ、筆を生涯絶つことがなかった。
岩波書店元会長・随筆家。号は冬青。幸田露伴、齋藤茂吉、寺田寅彦など名だたる知識人と広く交流し、親しく交際して培われた人物評伝は余人をもって換えがたい美しい作品となっている。画を描くことを生涯の趣味とした。名エッセイストとして、『遠いあし音』『小閑』など随筆も多数。