古今俳句短冊帖(歳旦および春、夏、秋、冬)
冨田鋼一郎
有秋小春
1984年、当時のロサンゼルスは五輪に沸いていた。
ビバリーヒルズメルローズ通りの場末で、老夫婦による小さなアンティークショップが閉店セールをしていたのに出会った。
壁にやたらと雑多な油絵が掛かっていた。油絵など手にしたことがなかったが、この少女の目に惹きつけられてしまった。
キャップはふわふわした髪の上に乗っかって、そして、頭は健康そうな体躯に自然におさまっている。正面のこちらを向いていないので落ち着く。
個人宅に住み込みで働く少女だろう。油絵は、おそらくヨーロッパ大陸で19世紀中・後半に描かれて、巡り巡ってここに運ばれてきたものと思われる。
作者のサインはないが、描き方に無理なところがないことに画家の力量を感じた。
‘Stealing price!’ 。老店主の吐き捨てるような声だけ耳に残る。
以来、38年にわたって食堂を飾っている。