読書逍遥

読書逍遥第121回 『文化がヒトを進化させた』ジョセフ・ヘンリック著

冨田鋼一郎

『文化がヒトを進化させた』ジョセフ・ヘンリック著

副題 人類の繁栄と<文化-遺伝子革命>

原題 THE SECRET OF OUR SUCCESS
How Culture is Driving Human Evolution, Domesticating Our Species, and Making Us Smarter

『文化がヒトを進化させた』と主張する。どういうことだろう。
キーワードは「文化-遺伝子共進化」。

「あなたも私も、かなり特異な性質をもったヒトという謎の霊長類の一員だ。、、しかし、生まれつき賢いわけではない」し、大昔から食物連鎖の頂点にいたわけではない。

「文化」を考慮せずにヒトの特性を理解しようとすることは、魚が水中で適応進化してきたことを無視して魚の進化を研究するようなものという。

著者のいう「文化」とは、習慣、技術、経験則、道具、動機、価値観、信念など成長過程で、他者から学ぶことなどによって後天的に獲得されるあらゆるものだ。

オリジナリティ溢れるスケールの大きな本だ。それは目次を眺めただけでわかる。文化、遺伝子、生物学的特性、心理、制度、歴史などカバーされる領域は非常に広い。

私は、文化とは人類が営々と築いてきた結果だと理解してきた。著者は違うという。常識が覆る。本を読むのは、こういうことに出会いたいためだ。

目次

はじめに

第1章 不可解な霊長類

第2章 それはヒトの知能にあらず
サルとヒトではどちらが勝つか
チンパンジーと大学生の記憶力
駆け引き能力に優れているのはどちらか

第3章 遭難したヨーロッパ人探検家たち
バークとウィルズの遠征
ナルバエス遠征隊
たった一人で置き去りにされた女性

第4章 文化的な動物はいかにして作られたのか
スキルと成功実績
プレスティージ(信望・名声)
自己との類似性――ジェンダー(性別)とエスニシティ(民族性)
年寄りの博識
他者の動向をうかがう同調伝達
連鎖的自殺
メンタライジング能力は何のために?
学び方を学び、教え方も学ぶ

第5章 大きな脳は何のために?――文化が奪った消化管
大きな脳、速い進化、遅い発達
消化機能の外部化――食物調理
道具がヒトを弱々しい太っちょに
ヒトを長距離走者にした水の容器と獲物の追跡
動植物についての思考と学習

第6章 青い瞳の人がいるのはなぜか
米の酒とADH1B遺伝子
ミルクを飲める成人がいるのはなぜか
文化-遺伝子革命
遺伝子と人種

第7章 信じて従う心の起源
授乳中および妊娠中の食のタブー
トウモロコシに灰を加えるのはなぜか?
占いとゲーム理論
「過剰模倣」の実験
本能の克服――トウガラシはなぜ美味しいのか
自然選択に勝るとも劣らぬ遺伝的進化の牽引者

第8章 プレスティージとドミナンス、生殖年齢を過ぎたあと
プレスティージとドミナンスの主な要素
プレスティージの高い人はなぜ物惜しみしないのか
プレスティージと年寄りの知恵
生殖年齢を過ぎたあと、文化、シャチ
リーダーシップとヒト社会の進化

第9章 姻戚、近親相姦のタブー、儀式
社会規範と共同体の誕
親族社会から親族システム社会へ
狩猟採集民の社会性および協力行動

第10章 文化進化を方向づけた集団間競争
集団間競争はどれくらい古いのか?
狩猟採集民の勢力拡大
太古の時代の勢力拡大

第11章 自己家畜化
利他的行動とトウガラシのどこが似ているのか
規範が生んだ民族の固定的イメージ
ヒトはなぜ血縁個体間の互恵的利他性が強いのか
戦争、外的な脅威、規範の遵守

第12章 ヒトの集団脳
さあ実験だ!
実世界での集団の規模と相互連絡性
タスマニア効果
実験室のタスマニア
幼児 対 チンパンジーおよびオマキザル
生まれつき賢いのはネアンデルタール人?
道具と規範がヒトをより賢くする

第13章 ルールを伴うコミュニケーションツール
文化的に適応するコミュニケーションレパートリー
複雑度、伝達効率、習得しやすさの文化的進化
手指の器用さ、規範、身振り、および音声の相乗作用
複雑な系列動作を学習するための遺伝子と脳
文化、協力、そして行動が言語よりも雄弁なわけ

第14章 脳の文化的適応と名誉ホルモン
ワイン、男性、歌
ロンドンで車を運転すると海馬が変わる
名誉ホルモン
薬理作用のないものが生理活性を示す

第15章 人類がルビコン川を渡ったのはいつか

第16章 なぜ私たち人類なのか?
絡み合う二本の道筋が橋をかけた
現生する類人猿はなぜルビコン川を渡れなかったのか

第17章 新しいタイプの動物
ヒトはなぜユニークなのか?
ヒトが他の動物よりも協力的なのはなぜか?
他の動物よりも賢そうに見えるのはなぜか?
このようなプロセスはまだ続いているのか?
歴史学、心理学、経済学、人類学の研究方法はどう変わってくるか?
この知見をどう役立てていくか?

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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