骨董品

夏目漱石筆「蓮切りに」句色紙幅

冨田鋼一郎

蓮切りに行ったげな縁に僧を待つ  漱石 印「漱石」

夏の早朝、和尚さんに会うために寺に赴く。初夏の湿っぽい空気の中、和尚さんは蓮切りへ出かけたのだろうか、縁側で庭を眺めながら僧の帰りを待つ。静寂で清浄な境内の雰囲気を漱石は愛した。

明治40年の作。同年の手帳によれば、五十八句、清水・鹿・秋の空と並んで蓮十三句 が作られた中の一句である。『漱石全集』によれば「蓮剪りに行ったげな椽(えん)に僧を待つ」の句形で入集。

明治40年は『虞美人草』の執筆中で、参禅をテーマとする『門』より三年早い時期。

漱石は禅に関心を持ち、鎌倉の寺に通ったし、僧侶や蓮に関する句を多く詠んでいる。蕪村らの句と並べて漱石の蓮句を掲載してみよう。

ほのぼのと舟押し出すや蓮の中 漱石
蓮(はちす)見て僧ほのぼのと立れけり  召波  (明和5・5・16 兼題 蓮)
白蓮を切らんとぞおもふ僧のさま  蕪村
蓮切りに行ったげな椽(えん)に僧を待つ  漱石

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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