渡辺崋山筆画稿「山水画」その2
冨田鋼一郎
有秋小春
蓮切りに行ったげな縁に僧を待つ 漱石 印「漱石」
夏の早朝、和尚さんに会うために寺に赴く。初夏の湿っぽい空気の中、和尚さんは蓮切りへ出かけたのだろうか、縁側で庭を眺めながら僧の帰りを待つ。静寂で清浄な境内の雰囲気を漱石は愛した。
明治40年の作。同年の手帳によれば、五十八句、清水・鹿・秋の空と並んで蓮十三句 が作られた中の一句である。『漱石全集』によれば「蓮剪りに行ったげな椽(えん)に僧を待つ」の句形で入集。
明治40年は『虞美人草』の執筆中で、参禅をテーマとする『門』より三年早い時期。
漱石は禅に関心を持ち、鎌倉の寺に通ったし、僧侶や蓮に関する句を多く詠んでいる。蕪村らの句と並べて漱石の蓮句を掲載してみよう。
ほのぼのと舟押し出すや蓮の中 漱石
蓮(はちす)見て僧ほのぼのと立れけり 召波 (明和5・5・16 兼題 蓮)
白蓮を切らんとぞおもふ僧のさま 蕪村
蓮切りに行ったげな椽(えん)に僧を待つ 漱石