突き抜けるような青空に木枯が吹き抜ける
冨田鋼一郎
有秋小春
達意の文章
家に届いた文鳥を観察し、
「瞼(まぶた)の周囲に細い淡紅色(ときいろ)の絹糸を縫いつけたような筋が入っている」
「細長い薄紅(うすくれない)の端に真珠を削ったような爪」
このような視覚的な表現があったかと思うと、
「文鳥は嘴(くちばし)を上げた。咽喉の所で微かな音がする。また嘴を粟の真中に落す。また微かな音がする。その音が面白い。静かに聴いていると、丸くて細やかで、しかも非常に速やかである。菫ほどな小さい人が、黄金の槌で瑪瑙(めのう)の碁石でもつづけ様に敲いているような気がする」
このような聴覚的表現が続く。思わず引き込まれてしまう透明な文章!
菫ほどな小さな人に生れたし 漱石
物事をよく観察した上で、豊富な語彙を駆使し描写する。漱石の文章の巧みさは、叙景であれ、仕草や心理であれ、形容表現が巧みなこと。場面が変わる幕間など細部に至るまで手を抜かない。
漱石の50年間、ほんとうに頭が回転し続けた人生だった。