作品・本・人物紹介

蕪村の俳句「月光西にわたれば花影東にあゆむかな」について

冨田鋼一郎

月光(げつこう)西にわたれば花影(かえい)東にあゆむかな
      平安夜半翁蕪村

季語:花影(春)
制作:安永六年

今日は立夏。桜が終わり、足早に夏がやってきた。
この句を賛にした俳画「渡月橋図」がある。(『蕪村全集』絵画遺墨所収No.47)

嵐山保津川に掛かる渡月橋あたりは桜の一大景勝地。一晩かけて月明かりで移動する花影の歩みを詠んだ句だ。
満月の明るい光に照らされる万物。桜が咲き満ちている。
明け方になって月は西空に傾いていくと、照らされる花影はゆっくり東に歩を進めていく。

作者は一晩中眺めていたのではないだろう。
といって目の前の一瞬を詠んだものでもない。時間を意識させる観念的な句とも言える。

蕪村には、その三年前に有名な句「菜の花や月は東に日は西に」という夕暮れの壮大な句を詠んでいる。

「月は東に」と「花影東に」。蕪村句には美の小宇宙が散りばめられている。
彼の求めた多彩な美の世界。その美しさの一端を見つけ、味わってみたい。
そう考えると、「東西」には特別な意味があると思えてきた。

これまで桜の蕾から開花、落花そして葉桜へとシーズンかけて、この句に向き合って、自分の中で何かが発酵してくるのを待っていた。
今ようやくまとまりつつあるので、論考を冊子にするつもりだ。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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