佐久間象山筆書簡巻子
冨田鋼一郎
有秋小春
月を待つこヽろうつりや風かほる 羅山
季語:風薫る(夏)
新緑の風さわやかな季節である。初夏ではあるが、そろそろ秋の名月が待たれる。作者は、何か他のことで気を取られていることがあるのだろうか。「こころ移りや・・」の言葉遣いは、蕉門俳諧以前の談林・貞門時代の17世紀前半の人の作とは思えないほど、近代的である。
林羅山は藤原惺窩と並ぶ朱子学の泰斗。木下順庵・新井白石と続く。女性的な細い字からは繊細な感覚の持主であることを窺わせる。林羅山の俳句は初見でめずらしい。
18世紀になると、「こころ」を句に入れることが増えて来る。たとえば、
こヽろほどうごくものなし春の暮 暁台
菫つめばちひさき春のこヽろかな 暁台
指さすハこヽろの雲やけふの月 麦林
江戸時代初期の朱子学派儒学者。林家の祖。羅山は号で、諱は信勝。字は子信。