蕪村(謝長庚) 筆 紙本墨画着色
冨田鋼一郎
有秋小春
ふしておもひおきてかぞふる万代ハ神ぞしるらむ我君のため
元政
日の本の御世はいったい幾世代にわたって続いていくのだろう。
神さまのみを知ることなのだろう。そのめでたさをは寝ても覚めても去らない。
元政上人は、秋草の和尚と呼ばれ、周囲から尊敬されていた和尚さん。
華美に流れることなく、実に流麗、端正な書で、短冊を手にとる者を思わず姿勢を正さしめる。
徳川家康が天下統一を果たし、ようやく世の中に平和が戻ってきた時代。芭蕉もこのような時代に誕生した。
「丈草となると澄徹し、透徹している。・・丈草に似た人といったら、元政上人でも持って来なければならないかもしれぬ。二人共に清らかで、二人共に病身で、二人共に四十で寂している。しかし元政の詩より丈草の句の方が、芸術品としてさらに高いところに行っていよう。ことに俗説でも、高尾との情事などの話が伝わらぬだけ、丈草の方がさっぱりしている。ただし丈草と元政では、沙門同士で付きすぎている。」
森銑三「柴田宵曲著『蕉門の人々』を読む」より
江戸時代初期の日蓮宗を代表する高僧。京都伏見の深草に住したところから、深草の元政、艸(草)山和尚とよばれている。日蓮宗の宗学者、教育者として大きな功績を遺しているが、当代一流の詩人・文人としても著名である。
元政はこの草山で自ら信行に励むと共に、著作詩文を多くものにし、著名な文人墨客と交遊し、宗内外の碩学と道交を結んだ。