骨董品

尾崎紅葉筆「金色夜叉」原稿2葉幅

冨田鋼一郎
H23.0 x W36.0 (cm)

覚えたり。彼は念頭に去らざりし宮ならずや。七生まで其願は聴かじと退けたる満枝の、我の辛さを彼に移して、先の程より打ちも罵りもしたりけんを、猶あきたらで我が前に責むる乎と、貫一はこらへかねてふるひ居たり。満枝はほしいままに宮を捉へてちとも動かせず、徐に貫一を見送りて、
「間さん、貴方のお大事の恋人と云ふのは是で御座いませう。」
頸髪取つて宮の面を引き立てて、
「此女で御座いませう。」
「貫一さん、私は悔しう御座んす。此人は貴方の奥さんですか。」
「私奥さんなら奈何したのですか。」
「貫一さん!」
・・
「間さん、貴方、私の申し上げた事をば、やあ道ならぬの、不義のと、実に立派な口上を有仰いましたでは御座いませんか。其程義のお堅い貴方なら、何故こんな淫乱の人非人をおめおま活けてお置き遊ばすのですか。それでは私への口上に対しても、貴方男子の一分が立たんで御座いませう。」

箱書き 恩師紅葉先生御作金色夜叉原稿二葉 石倉翠葉

続金色夜叉 第8章 貫一、お宮、満枝の場面

尾崎紅葉(おざきこうよう1867-1903)

小説家。名は徳太郎。号は「縁山」「半可通人」「十千万堂」「花紅治史」など。物語の巧みさと艶麗な文章で、圧倒的人気を獲得、泉鏡花・小栗風葉・柳川春葉・徳田秋声らの逸材を出した。作「多情多恨」「金色夜叉」など。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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