骨董品

里村玄陳筆「鷹ヶ峰時雨句および和歌詠草」懐紙幅

冨田鋼一郎

たかゝ峰三竹亭にて
諸共に山めぐりする
         時雨かな
けふみずは散のこるとも
 いかならむ時雨るころの

  もみぢ葉のいろ
 承応二年
    神無月仲旬  眼玄陳 印

季語:時雨(冬)

鷹ヶ峰:京都北、本阿弥光悦が家康に領地として賜った場所。

山々が連なる鷹峯に秋が深まり、冬の到来を告げる時雨がやってきた。山々全体が時雨に覆われてしまった。豪快な景色を句にした。

この日を見逃してはいけない。はらはらと時雨が訪れる今日、紅葉した木々の葉の風情を見逃ししまっては、残念なことだ。季節の移り変わりの風情を楽しことは、四季のある日本ならでは楽しみだった。名月、菊、紅葉、時雨と展開してゆく年の終わりをこころから味わなければ、口惜しいのだ。

芸術の伝統を育む鷹峯の地。ここに三竹亭があった。

すこし縮こまった特徴のある玄陳の書は珍重された。

「俳文学大辞典」(角川書店)によれば、承応四年(1655)には玄陳は方眼であるとされているが、本懐紙によって、その二年前の承応二年には方眼に叙せられていたことがわかる。

里村玄陳(さとむら げんちん1591-1665)

江戸時代初期の連歌師。里村紹巴の孫。里村玄仍の子。玄陳の連歌師としての評価はすこぶる高く、法眼に叙せられた。

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冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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