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野イバラの三大絶唱

冨田鋼一郎

5月に入るときまって蕪村の「イバラ」三句を思い出す。

⭕️花茨故郷の路に似たるかな

⭕️愁ひつ﹅岡にのぼれば花いばら

⭕️路絶えて香にせまり咲く茨かな

一句目、路上に群がり咲く野生のイバラの花。この色、この香り、幼い日に駆け回った故郷の道にそっくりだ。

ニ句目、「愁ひつ﹅岡にのぼれば」。
近くの岡に登ればトゲのある白いイバラがあちこちに咲き乱れているのだ。
この愁いは老人のものではない。何の愁いかも定かでない。これは青春時代に特有のもの。誰もがこの愁いを胸にしまい込んで生きている。

この句のおかげで、「岡」と「愁」と「野イバラ」は分かち難く結ばれた。
遠く過ぎ去った昔を思い出して胸キュン!

三句目、中七の「香にせまり咲く」。
「香の」ではなく、「香に」としたことで香りに焦点が当たる。何という力強い表現だろう。

この三句から故郷へのノスタルジーを嗅ぎ取った萩原朔太郎は蕪村を「郷愁の詩人」と呼んだ。詩人の鋭い感性のなせる

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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