凝る雲の底
冨田鋼一郎
有秋小春
5月に入るときまって蕪村の「イバラ」三句を思い出す。
⭕️花茨故郷の路に似たるかな
⭕️愁ひつ﹅岡にのぼれば花いばら
⭕️路絶えて香にせまり咲く茨かな
一句目、路上に群がり咲く野生のイバラの花。この色、この香り、幼い日に駆け回った故郷の道にそっくりだ。
ニ句目、「愁ひつ﹅岡にのぼれば」。
近くの岡に登ればトゲのある白いイバラがあちこちに咲き乱れているのだ。
この愁いは老人のものではない。何の愁いかも定かでない。これは青春時代に特有のもの。誰もがこの愁いを胸にしまい込んで生きている。
この句のおかげで、「岡」と「愁」と「野イバラ」は分かち難く結ばれた。
遠く過ぎ去った昔を思い出して胸キュン!
三句目、中七の「香にせまり咲く」。
「香の」ではなく、「香に」としたことで香りに焦点が当たる。何という力強い表現だろう。
この三句から故郷へのノスタルジーを嗅ぎ取った萩原朔太郎は蕪村を「郷愁の詩人」と呼んだ。詩人の鋭い感性のなせる