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若き蕪村の印影についての若干の考察

冨田鋼一郎

蕪村が関東遊歴時代(20歳頃から35歳まで)に使用した印は、講談社『蕪村全集』の印譜に掲載されている八顆とされている。

蕪村の文人趣味は、無名の時期にこれほど多くの印を彫らせたことにもうかがうことができる。

これらの印章は、残念なことに、そして、面白いことに、36歳で上洛して以後、一切使用した跡が見られない。

また、この事実からこれらの印のある作品は、蕪村の関東遊歴時代だとする有力な証拠となる。
(講談社『蕪村全集』絵画遺墨編佐々木承平氏による解説)

印章を上洛の旅の途中に紛失してしまったのか、あるいは、上洛を期に印を全て一新したものか、理由ははっきりしない。

現物作品の真贋を判定する第一関門は、落款(署名と印)の確認である。

いま精確を期すため、全集の印譜と手元にある現物と照らし合わせの作業をしている。

印のサイズのみならず、縁の欠け具合なども重要な判定材料である。

ここに八顆のうちニ顆を掲載して、照合作業の一端を紹介する。

「懶郎子(らいろうし)」(白文大方印)
 全集印譜の一番目の印
 サイズ 25×23
「朝滄(ちょうそう)」(白文大方印)
 全集印譜の四番目の印
 サイズ 25×25

懶(らい)とはなまけること。
精進を怠りがちな自分を戒めるために「懶郎子」と名乗り、修業に努めよと自らに言い聞かせたものか。

あるいは、後年「書窓懶眠」の前書きで
 学問は尻からぬけるほたる哉
の句にあるように、自らを「懶郎子」とユーモラスにおどけてみせるものとも思われる。

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  1. じゅんぺい

    落款の解説文が逆になってます。

ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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