静校寮歌祭「旧制静岡高校70周年記念文集」平成5年
この記念文集の中に父の投稿が掲載されていた。ここに転載しておく。
平成5年(1993) 父78歳
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「宣誓簿」 10文 冨田修平
⭕️流れ去りし我が青春のひとこまの
巻き戻されて見る宣誓簿
⭕️入校時の宣誓簿母校に残りいて
我が十七歳の墨跡太き
⭕️六十年振りにまみえしわが署名の
筆跡震ふる若き真摯さ
⭕️おのがじし交友の署名書き連ね
三十六名が絆固めし
⭕️戦死せし友の遺墨の並ぶ見れば
若き面影浮かびて泣かゆ
⭕️夭折のみ霊鎮むと雄渾に
また哀切に寮歌流るる
近年、頓に物忘れがひどく昔の記憶も薄れゆく小生にとって、静高入校時の宣誓簿を見たときの驚きと懐かしさは、今回の記念大会に出席しての思いがけない収穫であった。宣誓簿も目の前に出されてみれば、なるほどそんなこともあったかと思い出しこそ、それまではすっかり記憶から失せていた。いわんや、それが現存して此所で見られるとは思っても見なかった。そんなわけだから、肝心な宣誓の内容は今も思い出せない次第である。
我々の入校は昭和7年であるから、今年はちょうど60年目にあたる。寮歌「血のさざめ事」のメロディーが嫋々と流れる中に、生きて帰らぬ青春の一齣が巻き戻されて対面できたような思いに浸りながら眺めたのである。
文甲36名の一人の洩れもなく、出席簿の順による筆書きの練署である。文字に多少の大小、太き細きの違いはあるが、いずれも真摯に若さと一途さを秘めて、当時の緊張した雰囲気を偲ばせるものである。この署名の一人ひとりを思い出しながらじっと見ていると、俤に加えて、それぞれの個性さえ滲み出ててくるようだ。
物故者はと数えてみると、ちょうど半数の18名である。うち、戦死者が2名ということは、激戦時に遭遇したことを考えれば、むしろ少なかったと喜ぶべきかもしれない。それにしても、この2名がスポーツマンで好男子だった増田勝男と秀才の誉れの高かった渡辺辰夫の2人だったことが、残念であり、運命としか言いようがない。た。また物故者の大半が夭折、それも結核で占められているのは、それが不治の病と見られていた往時が思い出されて、なんとも痛ましい限りである。
流れくるメロディーは、いつしか、「地のさざめごと」から、「時じくぞ花」となり、その切々たる哀調は、まさに若いみ霊へのレクイエムとも。しみじみと哀悼の誠を捧げた次第である。
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