日々思うこと

JR東海と静岡県のリニア建設を巡る膠着について

冨田鋼一郎

本件がどのように決着するのか注目している。ここまで進捗している巨大インフラ事業に静岡県が待ったをかけている。川勝平太知事がJRの嫌がらせをしているとの見方があるが、そんな低次元の話ではないと思う。

クラウス・ドッズの『新しい国境 新しい地政学』の中に、世界の水を巡る軋轢の例がたくさん紹介されている。その中に、「河川や湖沼など水域に法人格を認めていく」のが世界の潮流だとある。

例えば、
○チリ 全ての河川に法的地位を与え、侵害に対して法的救済と補償。

○ニュージーランド ワンガヌイ川がマオリ文化にとり不可欠として、川の利益はマオリ代表者によって代理保護される。

○コロンビア アトラト川後見委員会によって保護される。

○アメリカ 加州クラマス川は先住民ユロック族による管理下に。

文化経済学者の川勝知事の胸の内を勝手に想像すると次のようになるか。

「雨、融解水、地下水、支流の水系などから無限に水を得ることのできる河川などは、単なる国の所有物ではない」

「河川などは、地域に並外れた生態系の健全性や地域社会の精神的安寧にとって重要な存在なので、地元関係者の主体的関与が不可欠」

「従ってこれまでより手厚い保護を与える必要がある」

「地下水系に法人格を与えて、本件を、日本における地元の利害関係者が代理する管理メカニズム導入の先例にしたい」

言葉にするとこうなるが、JR東海や山梨県、国が世界の潮流を理解できるか心許ない。また、一旦掘削完了してからでは水系の事後管理を具体的にどのようにしていくかは容易ではない。

成田国際空港は国が強行突破したが、時代は違う。知恵を出し合い、成熟した解決策を見つけてもらいたい。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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