読書逍遥

第1回『兼好』島内裕子著

冨田鋼一郎

『兼好』島内裕子著

兼好や徒然草に関する書籍は、世に汗牛充棟だ。だが、本書はいささか趣きを異にする。

長年の研究の集大成であると同時に、わが身に引きつけた思索が渾然一体となった好著だ。

専門の先生方の学術論文は、研究対象から自分を引き離して、客観的に処理する。得てして無味乾燥になりがちだ。

本書は違う。
「徒然草を読んでいると、いつもモーツァルトが聴こえてくる。この無比な清新さが、モーツァルトと兼好の身上である」

ぴちぴちとした躍動感溢れる指摘は、芳賀徹先生の薫陶を受けたと思しき個所だ。先生ファンのひとりとして微笑ましい。

一貫して兼好の魂に肉薄すべくひざ詰め談判する態度には緊張感がみなぎって、読者をズンズン引き込んでいく。

「読書と思索と執筆こそが、兼好という一人の人間を構成する三要素」とする著者は、その生き方に共感し、自分もこれに追随したいと願っているのだろう。

これから長らく本棚に並べておくだけだった本を見直し、丁寧にメモを取りながら、一期一会の気持ちで手にしていこう。今回逃したら、二度と手にすることはないとの思いだ。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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