人物表情(その2)蕪村と崋山の共通
冨田鋼一郎
有秋小春
「命ありて」
いつの間にか随分日が短くなった。午後になると日脚の速さが一層感じられる。
柔らかな光の中で、ススキが微かに揺れている。
崋山の紀行文(絵日記)『目黒詣』から俳句を一つご紹介。
煩わしい藩務、極貧の日々にあってこの秋の1日の目黒不動詣では忘れられない思い出となった。
時は紅葉の盛り、文政12年10月14日(陰暦)、崋山36歳。
命ありて小春に遊ぶ秋(の)蝶
のぼる
(「秋の蝶」の「秋」は、「牡」と読む人もいる)
よくまあ、この日まで生きてこられたものだ。
今日は身も心も蝶のように軽やかに、心ゆくまで行楽を楽しもう。
字余りの上五「命ありて」に万感の思いが込められている。