掛軸

丹後時代の蕪村筆『黄初平仙人図』

冨田鋼一郎

款記 「四明山人」 
印  「丹青不知老至」「嚢道」

黄初平: 中国の神仙。杖で石を打って羊に変える術を持つ。

39歳から42歳までの三年間、蕪村は丹後に滞在して中国画の模写に努めた。これはその時代の作品。
着目するのはその描き方。和画では見られない撥ねや留めといった加圧部を作り、線の中に筆圧を変えることで、異なる質感(リズムや抵抗感)を生み出している。
衣の襞は太い刷毛を用いて大胆に描出。何と表現したら良いか、この若者の表情は普通の人ではない独特の雰囲気を漂わせている。
強く地面を踏み締める足指が実在感をもたらしている。蕪村の足指には「命が凝縮」していると言われる所以だ。

遊印「丹青不知老至(丹青、老に至るを知らず)」。

絵を描くことは身体が老いるのを忘れるほど最上であるの意味。杜甫の詩の一節。
因みに、同時期の伊藤若冲も同じ句の印を使用していた。若き彼らは絵を描く事が楽しくて仕方がなかったのだ。

スポンサーリンク

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
記事URLをコピーしました