中沢弘光筆油絵「天橋立」
冨田鋼一郎
有秋小春
うば玉の露さだまつてほとヽぎす 瓦全
季語:露(秋)
夏の東雲(しののめ)。昨晩は風のない晴れた夜だったのだろう。野原のひあふぎの広い葉にたくさんの露がついている。予想通り露がたくさん降りたことよ。遠くの樹林からはほととぎすの甲高い鳴き声が響き渡ってくる。東の空が明るくなってきた。きっと今日も暑い日となることだろう。
短冊は、可憐な草をあしらったもの。
語釈
うば玉:射干(ひあふぎ)、山野に自生すいるアヤメ科の多年草。葉は広い剣状で、生え方が檜扇を開いたよう。盛夏のこと一茎を伸ばし、分枝した先に黄赤色で内部に紅点の多い花を開く。
「ほととぎす」は、鳥の時鳥ではなくて杜鵑草(ユリ科の多年草)かもしれないこと。
また、「うば玉の」は、射干(ひあふぎ)ではなく、「露」にかかる枕詞かもしれないこと。
ただし、枕詞の「烏羽玉(うば玉)の」は、辞書によると、「黒」「夜」「夕」「月」「暗き」「今宵」「夢」「寝」などにかかるとあり。「露」にかかるとは記載されていません。
江戸時代中期-後期の俳人。京都の扇商。俳諧を五升庵蝶夢に、国学を伴蒿蹊にまなぶ。「徒然草」の「馬のきつりよう」の謎をはじめて解いた。