渡辺崋山筆「西洋銃スケッチメモ」小品幅
冨田鋼一郎
有秋小春
雲間ㇵ何処も日のあるさくら哉 沙鷗
季語:桜(春)
「雲間」は、「うんかん」。雲の切れ間。雨続きの中の晴れ間。
桜の満開どき、木のもとから見上げたものであろう。見遣った桜の先の空は曇天、花曇りだった。晴れてはいないが、花弁ひとつひとつが白く輝いて、あたかも雲の切れ間から青空がのぞいているようだ。
満開、みごとな花であることよ。「何処も」による強調が、この句のポイント。
桜の木の元から見上げることで思い浮かぶ句は、
「まさおなる空よりしだれざくらかな 富安風生」
「葉桜の中の無数の空さわぐ 篠原梵」
森本沙鷗は、高雅で煎茶を嗜み、笛を愛した風流人だった。その人柄は、短冊の字にも表れていると思う。
温雅で気品さえ感じられる。くしくも蕪村没年に生れ、その生涯は崋山(1793-1841)時代に重なる。
果たして沙鷗と崋山とでは、どちらが幸せな生涯だったのだろうか。
尾張名古屋の酒造業。町代を務める趣味人。士朗門。