作者不詳筆「芭蕉12句による年中行事」画賛幅
冨田鋼一郎
有秋小春
応々といへどたヽくや雪の門(かど) 去来
あたりが静まり返った雪の日、夜更けだろうか。武家屋敷の門をしきりに叩く者がある。内の者が「わかった、わかった」と言いながら門を開けに出向くが、外ではまだしきりに叩いている。よほどの急用なのだろうか。静かな屋敷に緊張が走る。
去来句として最も人口に膾炙したもののひとつ。柴田宵曲『蕉門の人々』によれば、この句は、「大まかなようであって、しかも微妙なものを捉えている」という。
去来は、芭蕉の生前から既に重きをなしていた。『鬼貫句選』で、蕪村は「其角、嵐雪、去来、素堂、鬼貫を知らざるものには共に俳諧を語るべからず」と言った。
「・・を知らざるものには、・・・を語るべからず」、この表現は、蕪村の常套語。
去来代表句をここに挙げておく。
うごくとも見えで畑うつ麓かな
秋風やしら木の弓に弦はらん
湖の水まさりけり五月雨
江戸前期の俳人。別号、落柿舎など。蕉門十哲の一。京都に住み、堂上家に仕え、致仕後、嵯峨に落柿舎を営んで芭蕉を招いた。