椿椿山筆春庭香艶図
冨田鋼一郎
有秋小春
(春)
うぐひすにたは事始たる柳かな
やぶ入やおはぐろの出ぬ春さむき
神の梅烏帽子に似たるあられかな
燈ともして夜にする春のゆふべ哉
下戸ならぬ恥かさなりてゆく春や
(夏)
めし時に家鴨(あひる)ももどる田うえかな
雨雲にめぐりもあはで夏の月
ゆふだちや音あらがねのつちくさき
(秋)
おどりこに露ぞおくなり天の川
稲の葉の青かりしより案山子かな
うぐひすもそと来てゐるや菊の宿
(冬)
おしどりや色どりすぎてむねふくれ
ゆきにあとつけてもどるや年わすれ
月渓 印「呉春」
自身の春5句、夏3句、秋3句、冬2句に画を添えて一幅の軸に仕立てたもの。
なかでも、「めし時に」「稲の葉の」「雪にあと」などは自慢の句だったと思われ、短冊や軸ものでいくつか遺されている。画人だけに、添えられた「月」「雀」「案山子」「老人」などの画は揺るぎのない絵である。
四季折々の句で季節の移り変わりをあしらって、この軸一本で年間を通じて楽しめる。同様のものは、柿衞文庫の「十二か月風物句画賛」がある。
江戸中期の画家。尾張の人。号月渓。