松村呉春筆・松平不昧画合作蕪村「宇治行」俳文
冨田鋼一郎
有秋小春
雪にあとつけてもどるや年わすれ 月渓
季語:年忘れ(冬)
今年も歳末を迎えた。雪があたり一面を覆った夕刻だ。所用でどこかに出かけ、もどる家路で、ふと振り返ると自分のだどって来た足跡がくっきりと残っているではないか。今年もいろいろな事があったな。皆元気に歳末を迎えることができて何よりだ。温かい家に戻って、今夜は年忘れだ。
梅亭の描く画は、付き人を付けた人物が傘を持ち、振り返っている。
「雪にあと」は、「雪のあと」ではない。足跡をつけたのは、ほかでもない自分自身。雪にある足跡を振り返ることは、自分の来し方を振り返ることと同じである。ことに年末はそうである。思いが叶ったこと、叶わなかったこと。うれしいこと、悲しいこと。さまざまな出来事が脳裏をかけめぐる。来年こそは、息災を願って、年忘れといこう。
押印から紀梅亭の画であることがわかる。呉春、梅亭とも蕪村の画の門人。両者の合作はめずらしい。呉春はこの自句「雪にあと」が自慢だったようだ。この句を書いた多くの自筆作品が遺っている。
江戸中期の画家。尾張の人。号月渓。
江戸中期の画家。