読書逍遥

第59回『定本木下夕爾全集』牧羊社

冨田鋼一郎

『定本木下夕爾全集』牧羊社

「ひばりのす」 木下夕爾

麦畑、赤い屋根、診療所と聞くと、木下有爾の詩「ひばりのす」を思い浮かべる。
そして、春の陽が降り注きで果てしなく広がるウクライナの平和な大地の光景を想像する。
ひばりは平和の象徴のような小鳥だ。

☆☆☆☆☆
  ひばりのす 木下夕爾 

ひばりのす
みつけた
まだたれも知らない

あそこだ
水車小屋のわき
しんりょうしょの赤い屋根の見える
あのむぎばたけだ

ちいさいたまごが
五つならんでる
まだたれにもいわない

☆☆☆☆☆

木下夕爾(1914-1965)詩人・俳人

幼年期の至純な感性をいつまでも失わない詩人だった。安住敦、久保田万太郎らに見出され、句作もはじめる珍しい二刀流。

全句集からいくつか。

あたたかにさみしきことをおもひつぐ
あたたかく涙のたまにうかぶひと
少年に帯もどかしや蚊喰鳥
芒折つてゆびさせば海消えにけり
とぢし眼のうらにも山のねむりけり
遠雷やはづしてひかる耳かざり

帯をしめてもらう少年とコウモリ。どちらも気忙しい。カミナリとイヤリング、光るものの取り合わせ。これらのみずみずしい句からは、蕪村に通じるものを感じる。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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