第10回 『海の歴史』ジャック・アタリ
冨田鋼一郎
有秋小春
「ひばりのす」 木下夕爾
麦畑、赤い屋根、診療所と聞くと、木下有爾の詩「ひばりのす」を思い浮かべる。
そして、春の陽が降り注きで果てしなく広がるウクライナの平和な大地の光景を想像する。
ひばりは平和の象徴のような小鳥だ。
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ひばりのす 木下夕爾
ひばりのす
みつけた
まだたれも知らない
あそこだ
水車小屋のわき
しんりょうしょの赤い屋根の見える
あのむぎばたけだ
ちいさいたまごが
五つならんでる
まだたれにもいわない
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木下夕爾(1914-1965)詩人・俳人
幼年期の至純な感性をいつまでも失わない詩人だった。安住敦、久保田万太郎らに見出され、句作もはじめる珍しい二刀流。
全句集からいくつか。
あたたかにさみしきことをおもひつぐ
あたたかく涙のたまにうかぶひと
少年に帯もどかしや蚊喰鳥
芒折つてゆびさせば海消えにけり
とぢし眼のうらにも山のねむりけり
遠雷やはづしてひかる耳かざり
帯をしめてもらう少年とコウモリ。どちらも気忙しい。カミナリとイヤリング、光るものの取り合わせ。これらのみずみずしい句からは、蕪村に通じるものを感じる。