骨董品

若い蕪村の絵画 墨画淡彩「童子図」

冨田鋼一郎
H42.5 x W29.0 (cm)

紙本墨画淡彩
款記 「四明」
印  「四明山人」(朱文方印)
「淀水」(白文方印)

落款から20代後半から30代前半に過ごした結城下館時代のものと判明する。

まだあどけなさが残る伸び盛りの姉と弟。
弟の肩に右手をちょっと乗せて、左手で撫子の花を握る。仲睦まじい。
お姉ちゃんの顔は、輪郭をとりすぎてなんだかお面のようだ。
弟の右手に持つ棒のような物はなんだろう。
普段着は、継ぎ接ぎだらけでいつも膝が出そうなツンツルテン。背丈が伸びてくれば、肩上げ、腰上げを解いた。
足首はおろか脛まで泥だらけ。素肌は陽に焼けてむっちりとハチキレそう。
ひと昔前まではこんな子等(私も含めて)は何処にでもいた。懐かしい。いったい何処に行ってしまったのだろう。

この絵からは、蕪村が後年に描いた「奥の細道画巻」の那須に出てくる童子を思い浮かべる。
「おくのほそ道」を読み込んでいた蕪村。
道に迷った芭蕉を乗せた馬を小さな歩幅でトコトコ追いかける二人。手にしている撫子がその手掛かり。

ちひさき者ふたり、馬の跡したひてはしる。独(ひとり)は小姫にて、名を「かさね」と云。聞なれぬ名のやさしかりければ、
 かさねとは八重撫子の名成べし 曾良

蕪村が画号「四明」だった、まだ無名の時期の画だ。衒いのない初々しさを感じる。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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