渡辺崋山筆画稿「山水画」その2
冨田鋼一郎
有秋小春
紙本墨画淡彩
款記 「四明」
印 「四明山人」(朱文方印)
「淀水」(白文方印)
落款から20代後半から30代前半に過ごした結城下館時代のものと判明する。
まだあどけなさが残る伸び盛りの姉と弟。
弟の肩に右手をちょっと乗せて、左手で撫子の花を握る。仲睦まじい。
お姉ちゃんの顔は、輪郭をとりすぎてなんだかお面のようだ。
弟の右手に持つ棒のような物はなんだろう。
普段着は、継ぎ接ぎだらけでいつも膝が出そうなツンツルテン。背丈が伸びてくれば、肩上げ、腰上げを解いた。
足首はおろか脛まで泥だらけ。素肌は陽に焼けてむっちりとハチキレそう。
ひと昔前まではこんな子等(私も含めて)は何処にでもいた。懐かしい。いったい何処に行ってしまったのだろう。
この絵からは、蕪村が後年に描いた「奥の細道画巻」の那須に出てくる童子を思い浮かべる。
「おくのほそ道」を読み込んでいた蕪村。
道に迷った芭蕉を乗せた馬を小さな歩幅でトコトコ追いかける二人。手にしている撫子がその手掛かり。
ちひさき者ふたり、馬の跡したひてはしる。独(ひとり)は小姫にて、名を「かさね」と云。聞なれぬ名のやさしかりければ、
かさねとは八重撫子の名成べし 曾良
蕪村が画号「四明」だった、まだ無名の時期の画だ。衒いのない初々しさを感じる。