作品・本・人物紹介

芥川龍之介の文章

冨田鋼一郎

龍之介は「眼に見えるような文章が好きだ」と、文体にも注意していた。これは師の漱石受け継いでいたこと。

短編『蜜柑』から幾つか抜粋。心の機微に触れる描写に注目。

「いいようのない疲労と倦怠とがまるで雪曇りの空のようなどんよりとした影を落としている」

「ようやくほっとした心もちになって巻煙草に火をつけながら始めて懶い瞳をあげて、、、」

「窓から半身を乗り出していた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢いよく左右に振ったと思うと、たちまち心を躍らすばかり暖な日の色に染まっている蜜柑がおよそ五つ六つ、汽車を見送った子供たちの上へばらばらと空から降ってきた。」

「私は思わず息を呑んだ。そうして刹那に一切を了解した。小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴こうとしている小娘は、その懐に蔵していた幾顆の蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに来た弟たちの労に報いたのである。」

「私の心の上には、切ないほどはっきりと、この光景が焼き付けられた。そうしてそこからある得体の知れない朗らかな心もちが湧き上がってくるのを意識した。」

「私はこの時始めて云いようのない疲労と倦怠とを、そうしてまた不可解な下等な退屈な人生を僅かに忘れることが出来たのである。」

⭕️春風や堤長うして家遠し 蕪村

⭕️薮入りや浪花を出て長柄川 蕪村

⭕️薮入りの寝るやひとりの親の側(そば)
太祇

初版の芥川龍之介全集は昭和初期、岩波書店発行全7冊。
大部だが木版画の見返し・和紙の製本と非常に凝っていた。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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