日々思うこと

「教育とは、憧れの伝染である」

冨田鋼一郎

大谷翔平さんの言葉、「今日だけは憧れるのをやめましょう」が話題になった。勝ち負けの世界にドップリ浸かっている人にはとても受ける言葉かもしれない。

しかし、この言葉のポイントは、「今日だけは」と限定付きてあること。勝負を離れれば、「あこがれる」ことは決して悪いことではない。むしろ、大いに奨励すべきことだ。

人の成長は「あこがれ」からはじまると言っていいからだ。大谷さんも、あこがれてプロ野球選手になり、あこがれてメジャーリーグに入ったのだ。勝負の世界に入って、自分もきっと誰かに「憧れてばかりではダメだ。勝つことはできないよ」と言われたのではないか。

しかし、教育の根底にあるものは、あこがれの伝染である。あこがれにあこがれる関係づくり。

新しい世界にあこがれ、燃えて学んでいる人は、魅力を放っている。その人の「あこがれ力」に触発された人は、自分も何か学びたくなる。教師と学生との関係は、学びあいを刺激しあう友情の関係である。競争とか、勝ち負けの世界ではないのだ。

「~したい」というあこがれ(願望)が学ぶ意欲をかきたてる。相手の学ぶ気持ちに火をつけること、これが教師のほんとうの役割だ。共に成長し合うのだ。

教師は、あこがれを目指して飛ぶ矢であり続けたい。

斎藤孝さんの考え方に賛同する。

「学生諸君に寄せる」 宮沢賢治

 この四ヶ年がわたくしにとって
 どんなに楽しかつたか
 わたくしは毎日を鳥のやうに教室で
 うたつてくらした
 誓つて云ふがわたくしはこの仕事で
 疲れをおぼえたことがない

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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