読書逍遥

読書逍遥第106回『天声人語』13 担当 白井健策 1991.1〜1995.8

冨田鋼一郎

『天声人語』13 担当 白井健策 1991.1〜1995.8

昔の天声人語を見返している
時代の経て読み返す
これはこれで面白い

○ 1991.1.11付け
「ユーモア・スピーチ」

ブッシュ氏が夕食会で倒れた直後、ざわめく人々の緊張を瞬時に解いたのはバーバラ夫人だった。「アマコスト駐日大使の責任です、二人はテニスのダブルスを組み、今日、天皇と皇太子に惨敗したんです」と笑わせた。

立ち上がったブッシュ氏本人も、みんなの関心を引こうと思ったので、と軽口をたたいた。大変な状況の中でさえ人々を笑わせようとする努力。二人ともなかなかのものだった。いや、大変な状況だからこそ、なのかも知れない。

倉敷市にある柴田病院難治疾患研究部の医師伊丹仁朗さんは、がん患者に「ユーモア・スピーチ」の宿題を課す。「生きがい療法」という心身医学的治療の一環だ。「最近の身の回りの出来事を、聞く人が楽しく笑うような話にまとめて、毎週一回持ってきて下さい」。

人々は懸命に話題をさがす。看護婦さんに「今朝はなんべん(軟便)でしたか」と聞かれて「はい、三遍」と答えた話。
孫を寝かしつけるのに、昔話をしていて自分が先に眠ってしまった話……。自分や家族の失敗談が多い。

病院の学習会で、伊丹先生も含め、一人二分間の発表をする。みんなで笑って拍手。話を見つけようとすると、心が前向きになる。笑えるようにまとめる創作体験で心や脳が活気を帯びる。そして、笑う快感がもたらす生理的な効果・・・
四年ほど前からの療法だ。

人々に接している時、ユーモアの要素があると集中力が高まる、と気づいて試み始めたそうだ。笑いによって、明らかに不安は乗り越えやすくなるという。痛みにも耐えやすくなるのだろう。

心理面の治療をとり入れることが今後の流れになる、と伊丹さんは言う。そしてこう診断した。「ブッシュ夫妻の態度は、立派な健康危機管理でした」。

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弦念丸呈(ツルネン・マルティ)(1940- )さん

日本に帰化したツルネン・マルティさんが、湯河原町町議に立候補したとき

「地球民」「世界市民」としての目を忘れまい

○ 1992.12.27付け
「弦念丸呈さん」

神奈川県の湯河原町で来月の町議会選挙に出馬するツルネン・マルティさんが、話題になっている。フィンランドの出身だが、日本に来て二十五年、日本の国籍を得てから十三年。名前を弦念丸星と書く日本人である。

湯河原町には十一年前から住んでいる。出馬することが報じられると、町内だけでなく全国各地から「しっかり」という反響があって驚いたそうだ。

「ラフカディオ・ハーンという人がいましたね。何から何まで日本人と同じになろうとした。私も実はそう思っていた。しかし、ふつうの日本人であると同時に、プラス、地球民でありたいと思います」。

地球民という言葉が、話していると、よく出てくる。「そういう存在の一つの見本として、何ができるか、やってみたい」。

日本人だから、むろん、八割くらい日本を高く評価していますと言う。だが「金の奴隷になった政治」など、日本の久点も気になる。ある意味で外から日本を見る存在でもありたい。「それに抵抗を感じる人もいるでしょうが、それも私の役目だと思っています」。

社会福祉事業家として来日、永住するつもりだった。児童養護施設などで働いた。「源氏物語』など古典のフィンランド語訳もした。子供二人は町の学校に通い、妻の幸子さんと四人で暮らす。

弦念さんは日本人だが、最近、外国人に就職の門戸を開く自治体の話を耳にすることが多い。
同じ神奈川県の逗子市では、このほど、在日韓国人が職員採用試験で一般事務職に合格した。
受験資格を「日本国籍を有する者」に限る、いわゆる国籍条項を、撤廃する自治体もあれば守る自治体もあり、いまは過渡的な状況だ。だが、地域に住む様々な住民が地域のために働く、ということが、もっと当たり前になってよい。

弦念さんの標語は「青い地球を見つめる青い目」。地方の動きはなかなか興味深い。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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