日々思うこと

5月14日の空

冨田鋼一郎
[バイカウツギ]

漱石『三四郎』より

「何を見ているんです」
「あてて御覧なさい」
「鶏ですか」
「いいえ」
「あの大きな木ですか」
「いいえ」
「じゃ何を見ているんです。僕にはわからない」
「私さっきからあの白い雲を見ておりますの」
なるほど白い雲が大きな空を渡っている。空は限りなく晴れて、どこまでも青く澄んでいる上を、絹の光ったような濃い雲がしきりに飛んで行く。
風の力が烈しいと見えて、雲の端が吹き散らされると、青い地が透いて見えるほどに薄くなる。
あるいは吹き散らされながら、固まって、白く柔らかな針を集めたように、ささくれ立つ。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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