日々思うこと

エノキの実

冨田鋼一郎

エノキの樹はケヤキや銀杏とは違い普段は目立たない。

しかし、四季を通してさまざまな変化をみせる。
初夏の若葉のころ、葉が縦横に生い茂る夏、黄葉し茶褐色の小さな実をたくさんつける晩秋、そして落葉。この木は、定点観測するにふさわしい。

ケヤキが箒のように、太い枝を上に向かって伸ばすのと違い、エノキはもっと横方向にも太い枝を伸ばし、「こんもり」とした樹形となる。
エノキは、夏に木陰を作るので「榎」。和製の造語だそうだ。

江戸時代、街道沿いの一里毎にエノキを植えた。一里塚での旅人の出会いと別れ。また、一休みするに格好な木陰を提供する。

⭕️ 春をしむ人や榎(えのき)にかくれけり 蕪村

(蕪村全集解釈)
行く春を惜しんで郊行を楽しむ人の姿が、夏の木、すなわち榎の陰に隠れて見えなくなった。もう半分夏の世界の人となったらしい。

この句中の人は見かけた人か、それとも自分自身なのか?

「榎」の夏に隠れる。文字にも興味を持ち、言葉に遊ぶ蕪村。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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