作品・本・人物紹介

蕪村の特徴ある人物表現(その6)「呂洞賓(りょどうひん)」

冨田鋼一郎

落款 「四明図」
印 白文方印「不明」朱文方印「囊道」

呂 洞賓(りょ どうひん、796年-?)
中国の代表的な仙人である八仙の一人。

蕪村は北関東滞在中に雪村(せっそん)の作品を見ている痕跡がある。本作品は、上洛後、丹後にいた時の作品であることが、使用した印「囊道」から判明する。

雪村は呂洞賓を2点描いている。

李鉄拐(りてっかい)
蝦蟇仙人(がませんにん)

蝦蟇鉄拐図
がまてっかいず

作品画像一覧ページ
右幅は鉄拐仙人(李鉄拐)、左幅は蝦蟇仙人(劉海蟾)。2人はともに中国の仙人で、李鉄拐は自分の魂を遠くに飛ばすことができた。
劉海蟾は3本足の蟾蜍を従えていて、妖術を行うことができたという。エキセントリックな画風で知られる禅僧画家・雪村の作。

2つの掛軸に描かれた人物。一人は杖を持ち、空に向かって勢いよく息を吹きだしています。よく見ると、吹き出した息の先には、ちいさな人影が見えます。実はこれ、自身の魂。描かれているのは中国の仙人、鉄拐仙人こと、李(り)鉄拐で、自分の魂を遠くに飛ばすことができたといわれています。  もう一人は、大きく手を広げ、不思議な動物と向かい合っています。この人物も中国の仙人の一人、劉海蟾(りゅうかいせん)です。三本足のヒキガエル、蝦蟇(がま)を操って妖術を使ったといい、蝦蟇仙人の名で知られています。  

描いたのは、室町時代後期から安土桃山時代にかけて関東で活躍した、禅僧で画家の雪村(せっそん)です。雪村は墨の濃淡を使い分けてモチーフを描く水墨画を得意とし、自由で独特な表現に定評があります。今回ご紹介する作品の仙人たちも、なんともいえない奇妙さです。口を突き出して魂を飛ばす鉄拐仙人の表情には、怪しさが漂います。蝦蟇仙人は個性的な表情で、自身の操る蝦蟇と小躍りしているようです。

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蝦蟇鉄拐図
(がまてっかいず)

仙人、李鉄拐(りてっかい)と蝦蟇(がま)仙人こと劉海蟾(りゅうかいせん)が照応するように斜め向きになって岩上に坐る。鉄の杖を胸元にたてかけた李鉄拐は、ちょうど魂を吹き出した所で、もとの体は脱けがらとなってすでに死色を帯び、硬直し始めている。一方、劉海蟾は不老長寿を示す桃を持ち、肩に大きな白蟾をのせている。
筆者、顔輝(がんき、字は秋月〈しゅうげつ〉)は廬陵(今の江西吉安)の出身。宋末元初の13世紀後半に活躍した道釈人物画家である。怪異な主題を強調する変形された顔の輪郭や大胆にうねる衣紋には、宋画の写実的表現から脱けでた新たな造形感覚が窺える。

李鉄拐(り てっかい)は、中国の代表的な仙人である八仙の一人。鉄拐李とも呼ばれる。
名は玄、凝陽、洪水、岳など諸説ある。
鉄拐とは、彼の幼名であるとする説や、足が不自由で鉄の杖をついていたためという説がある。
暗八仙は葫蘆(瓢箪)。
絵ではボロボロの服を着て足の不自由な物乞いの姿をしていることが多いが、もとはがっしりとした体格の道士であった。二十歳の頃から仙道を志すようになり、ある日、太上老君に崋山で逢うことになり、魂を遊離させ、逢いに行くことにした。そこで、彼が帰ってくるまでの七日間の間、魂の抜けた身体を見守るよう弟子に言いつけ、もし七日経っても帰ってこなければ身体を焼くように言った。しかし、六日目に弟子の母が危篤との知らせを受けて、弟子は鉄拐の身体を焼き、母の元に行ってしまった。鉄拐が戻ってきてみると、自分の身体は既に焼かれていた。彼は近くに足の不自由な物乞いの死体を見つけ、その身体を借りて蘇った。
兵法三十六計の一つ、借屍還魂は、この逸話をもとにした計略である。
また、西王母に師事して東華教主となり、漢鍾離を得道させたという説もある。
ほかにも岳寿という小役人が李屠という者の体を借りて李鉄拐になったという話もある。鄭州奉行所の都孔目(裁判官)である岳寿は、悪の限りを尽くし、私腹を肥やして地獄に落ちてしまったが、生前、一つだけいいことをしていたことから呂洞賓に地獄から助け出された。しかし、死体は既に焼かれており、仕方なく死んだばかりの鄭州東城門内の肉屋である李屠の息子の小李屠に乗り移ったところ、小李屠は足が悪かったことから、杖をつくようになった。
蝦蟇仙人と合わせて「蝦蟇鉄拐」として、画題の一つとなっている。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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