作品・本・人物紹介

人物表情(その1) 蕪村と崋山の共通点

冨田鋼一郎

人の表情はその人がどのような性格なのかの理解を助けてくれる。
肖像なしには、その人物の事跡や文献をいくら知っても、どこかぴたりと焦点が結ばない気がする。

渡辺崋山と与謝蕪村の人物画を並べてその共通点を見ることにしよう。

まず崋山の「佐藤一斎像稿」(『定本渡辺崋山』郷土出版社より)。
文化4年(1807)の作。何という迫真性!実際にこのような人物と出会ったと錯覚しそうなの面貌。
目つきが鋭く、狷介固陋でどこか疑い深い性格の人物のようだ。

では、宝暦時代の若き蕪村が描いた「李鉄拐(りてっかい)と蝦蟇仙人図」の李鉄拐の顔はどうか。
李鉄拐は、中国に伝わる仙人で、魂を身体から自由に着脱する術を使う。

蕪村は、崋山より半世紀以上も前に、このような肉感的な表情を描いていたことに驚かされる。
日本における近代絵画は、崋山や司馬江漢あたりからと言われているが、「李鉄拐」の顔を見ると、あるいは蕪村が嚆矢だと思えてくる。

「真(まこと)を写す」。蕪村も崋山も人の内面まで肉薄しようとした。ただ美しく描くことではなかった。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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