骨董品

嵐雪筆「妻愛猫図」自画賛

冨田鋼一郎

夫婦(めおと)のいさかひを人々に笑はれて
悦ぶを見よやはつねの玉はヽ木 嵐雪 印

「玄峯集春之部」につぎの形で所収

む月はじめのめおといさかひを人々に笑はれ侍りて
よろこぶをみよやはつねの玉はヽ木

豊蚕を祝って、また、当年も豊蚕であることを願い、新年の初めの子の日に、蓍(めど)という草を箒に仕立て、蚕屋を掃くことをいう。この箒に玉を飾ったことから玉箒(たまばうき)と美称する。

「俳家奇人伝」

嵐雪、遊女上がりの妻の名は「烈」。妻は猫好きで、夫は「忌日」にも生魚を食う猫が嫌い。ある日、妻留守の時、猫を遠方に捨ててしまう。帰って来た妻は半狂乱。嵐雪はとぼけるが隣女より猫の行先が露見。門人に夫婦喧嘩を笑われる。とはいえ「純情」「誠実」「愛妻」後世の評。

嵐雪の愛妻とのいさかいといえば、いつも妻の可愛がっている猫をめぐってだった。どっしりと座布団を独り占めする猫を、作者は追い払うわけにもいかず、うらやまし気に眺める。猫にリボンを飾ったのは妻であろう。

蕪村の『安永三年春帖』に蕪村による挿絵16点のなかに、呑獅の句を添えた「嵐雪妻愛猫図」がある(茨木県立歴史館『蕪村展』1997年カタログより)。嵐雪と蕪村の画をならべて比べるのも楽しいだろう。蕪村の画もリボンをつけているので、嵐雪のこの「妻愛猫画」はかなり有名だったものと思われる。呑獅も、嵐雪のふとんといえば、ただちに「ふとん着て寝たる姿や東山」を思い浮かべたことだろう。

服部嵐雪(はっとり らんせつ1654-1707)

江戸時代前期の俳諧師。別号は雪中庵、不白軒、寒蓼斎、寒蓼庵、玄峯堂、黄落庵など。松尾芭蕉の高弟。雪門の祖。

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冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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