作品・本・人物紹介

夏目漱石『こころ』について

冨田鋼一郎

これまで漱石作品の中で一番好きなものは?と聞かれた時、『吾輩は猫である』と答えていた。

『こころ』は、教科書に採り上げられているにもかかわらず、登場人物が少ないし、「なんて暗い小説なのか」程度の印象だった。

今回、色鉛筆を手に読み返した。
著者が頭をフル回転させながら、理路整然と心理の機微に迫っていく描写はサスペンスさながらだ。

うーん。漱石さんはそれこそ命を削って書いてくれたんだ。
「漱石の最高傑作は『こころ』」だという主張が分かりかけてきた。

冒頭、「私はその人を常に先生と呼んでいた」で始まる。漱石さんこそ偉大な「先生」だ。

漱石が読者に伝えたいことは、次の一行に尽きている。

「私(先生)は暗い人世の影を遠慮なくあなたの頭の上に投げかけてあげます。しかし恐れてはいけません。暗いものをじっと見つめて、そのなかからあなたの参考になるものをおつかみなさい」

主人公の「私」は、その後どのような人間的な成長を遂げていくのだろうか。

宇宙(世界)が果てしないように、(自分の)心も広く深く底知れない。
「世界」と「自分」は一生かけて探検するに値する二つの大きな宇宙だと思う。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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