「大文字焼き」

冨田鋼一郎
[菩提樹の実]

 大文字やあふみの空もただならね 蕪村

大文字に火がともり、夜空にあかあかと「大」の字が燃えている。背後の近江の空も、ふだんとは違った感じで、壮観を引き立てている。芭蕉の「文月や六日も常の夜には似ず」の趣向を空間の対置に置き換えた。

お盆初日(迎え盆)、8月13日はお盆の始まりである「迎え盆」の日

8月16日は、「送り日」。お盆の期間に戻っていた御魂が送り火に送られてお帰りになる。各戸で送り火を焚くことはなく、東山の如意ケ岳で「大文字」の巨大な送り火に代表させて焚く。如意ケ岳は大文字山とも呼ばれる

 相阿弥の宵寝おこすや大もんじ 蕪村

相阿弥が銀閣寺の庭を前に宵寝をしている。やがて大文字の火がともり、騒がしくなる。「さあ、大文字が燃えはじまりましたよ」と、まわりが彼をゆり起こしている情景。

室町東山時代への回想は相阿弥の情景に及ぶ。
相阿弥(1472-1525)とは室町将軍、足利義政(1436-1490)に仕えた同朋衆で、中国から渡来する絵画の鑑定に当った絵師。中国画の品定めをした『君台観左右帳記』を残している。南宗画風の彼の絵に蕪村は深い関心を抱いていたのであろう。連歌にもすぐれ、東山文化の代表的存在でもあった。

東山文化
室町時代中期の文化を指す用語。八代将軍足利義政が築いた京都の東山山荘を中心に、武家、公家、禅僧らの文化が融合して生まれたとされる。慈照寺銀閣は東山文化を代表する建築である。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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