王維「送別」

冨田鋼一郎
[「さくら川村騎馬人物図」(部分)]

この騎馬人物は、馬を停めて、大きな空と山を見上げながら、漢詩の世界が脳裏を次々とよぎったのではなかろうか。

どのくらいこの姿勢でたたずんでいたのか。「毅然として動かざること、山の如き」

目の前の山を悠然と見上げていると自然とひとつになったような気持ちになる。唐詩人との対話がはじまる。

王維 「送別」 五言古詩
                   
 下馬飮君酒
 問君何所之 
 君言不得意 
 歸臥南山陲 
 但去莫復問
 白雲無盡時

馬より下りて 君に酒を飲(の)ましむ
君に問う 何(いず)くにか之(ゆ)く所ぞと
君は言う 意を得ずして
南山の陲(ほとり)に帰臥(きが)せんと
但だ去れ 復(ま)た問うこと莫(な)からん
白雲尽くる時無し

多くを問わず、静かに見送ろうとする姿に、詩人の友人への心配りと愛情、そして友人の隠遁生活への励ましなど、無尽の思いを感じ取ることができる詩です

「網川に帰りて」

 悠然遠山暮
 獨向白雲帰

悠然たり 遠山の暮れ
独り白雲に向って帰る

「終南の別業」

 行到水窮處
 坐看雲起時

行きては水の窮まる処に到り
坐しては雲の起る時を看る

スポンサーリンク

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
記事URLをコピーしました