骨董品

渡辺崋山筆「地球図付き」書簡

冨田鋼一郎

崋山筆真木重郎兵衛定前(さだちか)宛 地球図入り書簡
昨日は海鼠(なまこ)わた沢山
いただき有難く御礼
申上候 御一笑々(一笑)うす
ひきうた左ニ入御覧
申し候
  めぐり見たいは 
  亜細亜に烏斯太羅へ 
  亜弗利亜墨利加 
  欧羅巴
   「地球図(南極と北極で両手を挙げている人物図)」
                   渡邉登
真木様

宛先は真木重郎兵衛定前(さだちか1797-1844。田原藩の用心で、崋山が特に信頼し、心を許していた人物である。

真木氏から海鼠腸(このわた)を贈られた際の礼状断簡。礼状に自作の臼引き歌と画を添えた。信頼する若き同僚へは、自らの夢を正直に吐露している。鎖国の時代、外国への渡航はご法度の時代である。めったなことで口外できることではなかった。

めぐってみたいのはと自ら問いかけて、夢を臼引き歌になぞって、行ってみたいのはね、この地球にある五大陸ですよ。蘭書で知った五大陸の名前を連ねてみた。海の向こうはあまりにヴェールに包まれたままだった。

「地球図」に目を留めてもらいたい。地球という言葉を添えて丸い円を描き両極で両手を挙げている人がいる。南極では人が反転していることがお判りだろうか。地球が丸いということだけでなく、引力の存在を理解して描いている。江戸期にこのような地球を描いた人はいたのだろうか。

江戸期に地球をこのように現実的に表現し、地球という言葉を使用した例があるだろうか。お礼の言葉がこのような形で遺されているのは、実に興味深い。

渡辺崋山(わたなべ かざん1793-1841)
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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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