骨董品

加藤暁台筆「鹿追ひや」短冊

冨田鋼一郎
H35.2 x W5.7 (cm)

鹿追ひや暁聲に雲を裂 周挙

季:鹿の声(秋)
晩秋、長くなった夜が白々と明けてくる。鹿を追うために山に分け入ってみると、哀切をおびた雄鹿の声が響きわたる。雌鹿の気を引こうと鳴いているのだ。交尾期になり、雄鹿は盛んに鳴いて、雌の気を引こうとする。その鳴き声はヒヨヒヨヒューヒューと、遠くで聞くと哀れを催す寂しい声である。

「暁聲に雲を裂(あかつきこえにくもをさく)」との簡潔な表現によって、明け方のひんやりした空気になかで雲を切り裂くかのような鹿の声に、こちらの身も引き締まる。「暁台句集」に所収。

暁台は秋と冬に佳句が多い。また、暁台は句中に「暁」を多用し、「暁台句集」では秋の部に4句、冬の部に4句ある。

«秋の部»

暁や雨も頻にむしの聲
夜すがらや暁の鐘にけふの月
鹿追ひや暁聲に雲を裂
暁の寝すがた寒し九月蚊帳

«冬の部»

暁や鯨の吼るしもの海
さむそらやたゞ暁の峯の松
暁をまぐれて行やむらちどり
暁や榾焼そへる山おろし

加藤暁台(かとう きょうたい1732-1792)

江戸中期の俳人。久村氏とも。本名、周挙。別号暮雨巷など。名古屋の人。天明俳諧中興の士を以て任じ、二条家から花の下宗匠の免許を受けた。蕪村らと交流。桜田臥央編「暁台句集」がある。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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