読書逍遥第224回 『モンゴル紀行』(その1) 街道をゆく5 司馬遼太郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
構図や遠近法、配色についての解説のあと、巻末に「傑作と習作の違い」についての指摘
「傑作は、造形力(美感)と共感力が備わって生まれる」
傑作=造形力(美感)+共感力
☆☆☆
名画は、私たちの心を豊かにするが、キーとなるのは「共感」だ
美しく整った表現や優れたデッサン力といった「造形力」に、優れた「共感」表現が加わったときに傑作になる
造形力だけでは心に残る名画にはならない
[共感に関係する脳の働き]
私たちには意識できる反応と意識できない反応の2種類があり、全く別々な感情が生まれる
文字や数字は、大脳新皮質(前頭葉)に伝わって反応し、合理的な感情が生まれる
一方、視覚や聴覚などの五覚は、原始的な脳といわれる大脳辺縁系(海馬)に届いて反応し、情緒的な感情が生まれる
成人以降は、大脳辺縁系は発達しないので、子供期に社会性と個性を調和させる共感力を育てることが大切である
文字表現は、大脳新皮質に届き、理性的に意味を吟味するが、すぐには感情が湧かない
しかし、視覚表現からは、一瞬で感情が湧き、好きと嫌いに分けることができる
これが古い脳の大脳辺縁系(海馬)で生まれる共感力である
視覚が大脳辺縁系に届くと、人の太古の記憶と突合されて、共感が目覚める
青空を見ると明るい未来を感じ、暗い洞窟のような空間にいると安心するのは、そんな記憶からである