第41回「知の旅シリーズ7」世界責任編集・森本哲郎
冨田鋼一郎
有秋小春
「家族」について
暖かく親しみのある家庭というのは、みんながエゴをむき出しにし、本音を遠慮なくさらけ出し合うような家庭のことではありません。
そうではなくて、一人一人が欲望を自制し、内面を隠し、期待されている家庭内の役割をきちんとこなし、そうすることでほかのメンバーの「家庭以外の場所・家族以外の人間関係」における活動を支援する集団、それが正しく「癒し」の場であるような家庭だと僕は思います。
僕が「自立しろ」と学生にがみがみ言うのは、一人で暮らした方が気楽であるとか、誰にも依存しない生き方は素晴らしいとか、そんな薄っぺらなことを言いたいからではありません。
そうではなくて、「自立できる人間、孤立に耐えられる人間」しか、暖かい家庭、親しみの溢れる家庭を構築することができないと思っているからです。
一人でいることのできる人間だけが、他者がかたわらにいるときの温もりに、深い感謝と敬意を抱くことができるのです。
逆説的なことですが、「温かい家庭を構成できる人間」とは、「一人でいることに耐えられる人間」のことです。
「自分のために家庭は何をしてくれるのか」ではなく、「家族のために自分は何をしてあげるのか」、ということを優先的に配慮するような人間のことです。
家庭は社会であり、家族は他者です
そこで人間は生まれて初めて共同的に生きるマナーを学びます。
そのマナーは、集団のスケールがどれほど広がっても本質的に変わりません。
何よりもまず自分を適切に防衛すること、他者にディーセントであること、自分の立ち位置を正しくマップすること、、、他者と共同的に生きるしかたに家庭内と家庭外の違いはありません。