読書逍遥第340回『ゆく川の流れは、動的平衡』(その1) 福岡伸一著2022
冨田鋼一郎
有秋小春
[街道]
紀元前3世紀、偶然にしろ、地球の東西で大規模な土木工事が始まった
東方では「万里の長城」
秦の始皇帝時代と16世紀の明時代の長城を含めると全長5千キロ
西方では「ローマ街道網」
前3世紀から後2世紀までの5百年間に敷設した道の全長は、幹線だけでも8万キロ、支線まで加えれば15万キロに達した
何故、国家規模の大事業が、支那では長城で、ローマは街道なのか
「つながる」と「へだてる」 思想の違い
自国の防衛を、異民族との往来を断つことによって実現するか、それとも自国内の人々の往来を促進することによって実現するのか
道路とは、国家にとっての動脈である
だから、1本や2本の街道を通したぐらいでは充分とは言えず、街道網を張りめぐらせていったのではないか
血管の中を通って身体のすみずみにまで血液が送られてこそ人間は生きていけるのだから、国家が健康に生きていくにも、血管網は不可欠である
道路自体は、ローマ人の発明ではない
しかし、そのネットワーク化は、しかも常にメインテナンスを忘れないようにしてのネットワーク化は、まったくのローマ人の独創である
ネットワーク化による機能の飛躍的な向上に着目したこと自体が、ローマ人を現実的で合理的な民族に育てていくことにもなった
インフラとは、膨大な経費をかけ、多くの人々が参加し、長い歳月を要して現実化するものだけに、ハードな分野の成果では終わらずにソフトな分野、つまりは精神の分野にまで影響をもたらずにはすまない
万里の長城とローマ街道網。この両者のちがいは、地球の東と西の違い以上に大きかったと、私には思えてならない