読書逍遥第319回『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その17) 森本哲郎著 2000年発行
冨田鋼一郎
有秋小春
興味深いエピソードに出会った
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数年前だったか、将来の首相候補と世評の高かった日本の政治家の一人と会っていた時だ。
その人は私に、総理大臣になったら何をすべきと思うかとたずねた。私は即座に答えた。
「従来のものとは、完全にちがう考えに立った、抜本的で画期的な税制改革を置いて他にありません」
そうしたらその人は言った。「税の話では、夢がない」と。私は言い返した。
「夢とかゆとりとかは各人各様のものであって、政策化には欠かせない客観的基準は存在しません。政治家や官僚が、リードするたぐいの問題ではないのです。政治家や官僚の仕事は、国民一人ひとりが各人各様の夢やゆとりをもてるような、基盤を整えることにあると思います」
その後に発表されたこの人の政見を読めば、私の助言は無駄に終わったことがわかった。が、このエピソードは、ローマ史を書く上では、役に立ったのである。
なぜなら、私に次のことを考えさせたからであった
古代に生きたローマ人は、「公」と「私」の区分を、どのように考えていたのか。
そしてこの疑問への解答は、これらローマ人が、インフラが「人間らしい生活を送るためには必要な大事業」と定義していた彼らのインフラを取り上げることで、得られるのではないかと考えたのである。
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税制は、安全保障・治安・医療・教育・郵便・通貨などとならび、広い意味で「ソフトのインフラストラクチャー」として捉える