読書逍遥

読書逍遥第406回『すべての道はローマに通ず』(その5) 塩野七生著

冨田鋼一郎

『すべての道はローマに通ず』(その4) 塩野七生著

興味深いエピソードに出会った

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数年前だったか、将来の首相候補と世評の高かった日本の政治家の一人と会っていた時だ。

その人は私に、総理大臣になったら何をすべきと思うかとたずねた。私は即座に答えた。

「従来のものとは、完全にちがう考えに立った、抜本的で画期的な税制改革を置いて他にありません」

そうしたらその人は言った。「税の話では、夢がない」と。私は言い返した。

「夢とかゆとりとかは各人各様のものであって、政策化には欠かせない客観的基準は存在しません。政治家や官僚が、リードするたぐいの問題ではないのです。政治家や官僚の仕事は、国民一人ひとりが各人各様の夢やゆとりをもてるような、基盤を整えることにあると思います」

その後に発表されたこの人の政見を読めば、私の助言は無駄に終わったことがわかった。が、このエピソードは、ローマ史を書く上では、役に立ったのである。

なぜなら、私に次のことを考えさせたからであった

古代に生きたローマ人は、「公」と「私」の区分を、どのように考えていたのか。

そしてこの疑問への解答は、これらローマ人が、インフラが「人間らしい生活を送るためには必要な大事業」と定義していた彼らのインフラを取り上げることで、得られるのではないかと考えたのである。

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税制は、安全保障・治安・医療・教育・郵便・通貨などとならび、広い意味で「ソフトのインフラストラクチャー」として捉える

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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